俳人、黒田杏子先生に御紹介頂いた金利惠さんの韓国伝統舞踊公演が、過日渋谷セルリアンタワー能楽堂で行われた。
現在ソウルにお住まいの金さんは、東京生まれで、20歳で母国韓国を初訪問し、韓国古典舞踊に衝撃的な出会いをしたと言う。1981年、単身帰国移住。人間国宝 李梅芳の門下と成って本格的舞踊修行を行い今日に至り、重要無形文化財97号「サルプリチュム」、同じく27号「僧舞」の履修者として認定される実力者であると言う。今日、国内外で旺盛な舞台活動に取り組んでいる。また俳句を良くし、黒田先生から特別に指導を受けているとも聞く。過日私も、日経俳壇黒田杏子選
沈黙の逢瀬水際花菖蒲 利惠 の句が取り上げられていた事を知っている。こんな事で、5月の末日黒田先生から御紹介を頂き、今回の公演を拝見させて頂いたのである。また、偶然にこの舞台の制作を担当している方が、私の古い友人の極て親しい方である事も知り、人間の縁の面白さを改めて思ったりもした。
会場には黒田先生をはじめ、俳句関係者も多く、その末席を頂いた事が嬉しかった。
能舞台で行われた韓舞(からまい)「水と花と光」は、企画・構成・振付を金さん自身が行う意欲的な作品であり、韓国古典楽器の演奏と競い、時に受け止め舞う韓舞は、悲しい程に美しかった。特に、古典楽器の演奏、チャンゴと呼ばれる太鼓、銅鑼や鉦、テグムと言う横笛、篳篥(ひちりき)に似たピリ、アジェンと言う琴、胡弓の様なへグムにより生み出される音は、不確かさと曖昧さを引きずりながら独特の世界を作り出すパワーを持っていた。西洋楽器に無い不安定な音程は、殊更ビブラートが掛けられ、私の左脳を激しく突くのである。また厳密な古典楽曲としてのルールを持つ演奏なのだろうが、時に6人の楽士のインプロビゼーションのエネルギーは、モダンジャズを超えて自由で哀愁を帯びながらも熱く、嬉しいものだった。
終演後、私も楽屋にお邪魔させて頂き、黒田先生はじめ、多くの俳人の方々と記念写真を撮らせて頂いた。舞台の写真を掲載する事は叶わぬものの、金利惠さんに見せられた一日であった事が、少しでもお裾分けできたら幸いである。