すでに40年近くになるだろうか、週刊新潮に新潮ギャラリー?なる連載があり、話題の美術が見開きいっぱいにカラーで掲載されていた。モノクロームの作家のポートレイトと紹介も書かれていて、毎週待ち遠しい程に楽しみだった。私は、それを抜き取り集め、大切に保存していたのである。その中で、特に美しいバルールの色面と線描で構成された油絵に、強い衝撃を受けた事がある。この画家の名が木村忠太で、パリ在住の新進気鋭の作家である事を知った。以来好きな作家として内に刻まれ、憧れ続けて来た。
1994年、東京国立近代美術館で大規模な回顧展が開催されたが、その感動に圧倒された事を昨日の事のように覚えている。
4日、NHK日曜美術館を見ていたら、高崎市立美術館で「木村忠太展」が開催されている事を知る。兎に角時間を作って早速出掛けて来た。高崎市立美術館は初めての訪問だったが、建築は確かなデザインで、街中の程良い規模のモダンなファシリティーであった。市立美術館を持つ高崎のパワーと見識を、強く感じた。嫉妬を覚える程に、これだけで良い街である。
「原一雄コレクション ー 魂の印象派 木村忠太の世界展」は、小規模な企画展ながら、充分に木村忠太の世界を楽しめた。木村は、「外の中心は東洋の横に並べる伝統であり、『服従的』であるのに対し、内なる中心は光に繋がり、西洋の上に重ねる伝統であり『意志的』である。この東洋のフォルムと西洋のフォルムのせめぎ合いが『中心が動く』という事態を生み、それを二者択一するのでは無く、一つの画面に統一する事で、問題の解決を図った。」 と言う。また、「外の真実と内の真実があり、内なる真実だけでは単なるアブストラクトになってしまう。」 とも言い、アブストラクトの次の時代を目指して、彼は、それを「魂の印象派」と呼んでいる。この言葉を合わせ作品を見ると、成る程と、木村の目指した世界が良く理解出来る。
素晴らしく有難い企画展であり、良い時間を頂いた。入場料100円には吃驚、ユニクロの何10倍と言うコストパフォーマンスである。4月17日までの開催との事、是非御覧頂きたい美術展である。
写真は、死の前年1986年に描かれた木村忠太の代表作の一つ、「ベンチに座る人」 である。