10日午後、世田谷区代田に向かった。小田急線梅丘駅で降りると、程無い処に現場がある。すでに大方は建ち上がり、人手のあるところで出来るだけの進捗をと、職人さんたちの奮闘が続いていた。上棟式まで少し間があったので梅丘駅周辺の街ウオッチングに出掛けた。不動産価格低迷の折とは言え坪当たり、代田周辺で220万とも250万円とも聞く。商店街を外れると住宅街で、土地の問題なのだろうか、小さく区分けされた敷地に住宅が建ち並んでいる。小住宅のサンプルが並ぶ様で、都市住宅事情を考えさせられる。
梅丘商店街の中に本屋があり覗いてみると、そこそこの街の本屋さんで、雑誌、コミック、文庫、話題の新刊書、そして趣味のコーナーには俳句本が4・5冊、そのほとんどが金子兜太先生の本であった。金子先生の人気振りを、改めて知らされる。入口近くの平積みの雑誌に、これも金子先生が表紙の文芸春秋増刊「くりま5月号」が目に入った。特集「俳句のある人生」、本邦初公開「朝日俳壇」入選句はこう決まる、と言う見出しに思わずその雑誌を手に取った。初めて入った本屋で立ち読みも失礼なので、この偶然を愛で、首席入選の我が褒美として購入した。改めて読んでみると、今年の1月15日金曜日の選句の様子がドキュメントされていた。選者4人の先生方が、三々五々築地にある朝日新聞本社の選句会場となる会議室に集まり、6千句の中から40句を選ぶ。1束300枚の葉書が20束、1月・4月、新年と新学期には投句の数が増えると言う。卓上には前5週分の紙面が置かれ、5週の入選句に同じ作者が居るかどうかをチェックしながら、なるべく新しい人の句を取ると言う配慮をすると言う。1速300枚を5分から8分で目を通す先生方。「いい句は、飛び込んでくる感じがするの。そしてきれいに書いてあるのが絶対条件。シンプルに一句、さっと書いてあるのがいい。」 と稲畑汀子先生は言う。選ばれた句は籠に入れ、コピーされて原本はまた束の中に戻されて、次に回って行くと言う。石田千氏と言う若いライターが、朝日俳壇の選句の様子を丁寧に活写している。機会あれば、是非御一読を勧めたい。このレポートから推測すると、同一選者から最大限に選ばれても7週に1度と言う事の様である。我が家族は、なべて朝日俳壇入選に対するリアクションが無い。この雑誌を、何となくダイニングテーブルの上に置いておこうか、と思う。
大勢の職人さんの御協力で垂木を据え付け、野地板も大方を張り終え、上棟式の祭壇も設えた。棟飾りを棟に縛り、棟梁の音頭で神事を執り行う。御神酒で乾杯をし、〆をして屋根から下りる。奥様が御用意下さった手料理と、この日の為に取り寄せたと言う銘酒で上棟の宴が盛大に行われた。御夫妻の勧め上手と、飛切りの酒と料理で心行くまで堪能させて頂いた。東京世田谷のど真ん中で吃驚するほどの盛大な宴を頂いたのである。古い友人の配慮に、只々感激である。最後に、正調熊谷木遣〆で、確りと〆させて頂いた。上棟式に本木遣を聞く事も無く成った今日この頃、クライアント御夫妻も大いに喜んで下さった様である。勿論、私も一声上げた。
完成まで、無事故で立派な建築を仕上げ、御引き渡しをしたいと改めて念じたのである。