大野百樹先生の卆寿展が日本橋三越本店で開催されていた。過日、先生のギャラリー・トークがあり参加した。会場には沢山の人が集まり、私は席を得る事も出来ず、多くの人が立ち見のままに先生のお話を拝聴したのである。
先生御自身が「祈りの筆」と画業を称するように、天然自然に誠実に向き合い追い求めた美、描かれた風景画は、宗教画と思われる程に透徹した意思を読み取る事が出来る。独自の画法、点描を極めた精緻な画面に、私は心を静かに鷲掴みにされる思いである。
ギャラリー・トークで興味深かったのは、なぜ点描と言う画法を獲得したかと言うお話であった。現地でのスケッチは鉛筆と色鉛筆を使って取材を成されると言う。必死の鉛筆でのデッサンの後に色鉛筆で色を置いていく。鉛筆の黒鉛で画面が濁らない様に、線と線の間に刺すように色を置くという。結果、色の点描がなされると言うフィジカルな理由が一つにあると言うのである。そして、先生の師である奥村土牛に師事したある日、テーブルの上のマッチを箱から出し、幾重にも積み上げて言ったと言う。師は、「私は1本でこの無数のマッチを描きたいと思う。貴方は、この無数のマッチで1つの本質を描いて欲しい。」 と言う指導を頂いたと言う。ここから、大野先生の独自の点描画法の獲得に悪戦苦闘が始まったと言うのである。
何度もお話を聞く機会を頂きながら、初めて聞く興味深いエピソードであった。
改めて代表作品を拝見し、私の近くにこれ程の素晴らしい芸術家を頂いている事に、私は至上の喜び、感謝の念を覚えたのである。