ハッカ油と喘息の吸入剤2種、目薬も2種類をファスナー付きの15センチ×10センチ程の布製の小さなバッグ・ポシェットに入れて何時も携帯していた。30年を超えて愛用し、この間バッグは使い古して幾つも買い替えて来たが、この薬入れだけは変わらず持ち歩いて来た。思えば、長い付き合いの薬袋である。3日程前、我がバッグの定位置に置かれている薬入れが無くなっている事に気が付いた。事務所のデスク回りを、自宅を、過日大宮まで行った折に立ち寄った店やJRの忘れ物センターまで電話をして確認したが、何処にも見当たらない。今日まで無くなっても必ず出て来たものだから、突然に現れるのではないかと期待しながらも・・だから、このところ心がざわついている。
中学1年の11月3日の朝、突然に喘息の発作を経験した。中学、高校時代は酷く患い、基礎学力の欠落は長欠児童だったが故である。以来今日まで喘息の吸入剤は手放した事が無く、最近は薬が側に在る事だけで安心し発作も起こらないのだが、不在に気付くと息苦しくなる。お守りの様な薬入れは、何処へ行ってしまったのだろう。吸入剤の予備を持っていたので発作を起こさずに居られるのだが、長い歴史を断ち切られた様な失せ物だけに、息苦しさを覚える。
何か悪い事が起きるような気がして脅えているのだが、娘が「きっとあの薬袋が難を背負ってくれたので、大丈夫・・」と優しい言葉を掛けてくれた。が、相変わらず根深い所で不安を引きずっていている。それ程に、長い時間を共に積み上げた薬袋なのである。