すりよりて冷たき鼻の犬の春 幻椏
「犬の春」とは言え、季語は「春」である。易きに流れる私の句には、この大季題 春 を使った句が多い。豊穣な季語を数多我が内に抱え、身体化して充分に楽しみたいのだが・・・、そうも行かず非力を実感する昨今である。初学のころ、小さな季語集を何時もバックの中に入れていた。詩人金子光晴に愛されたという麗人から、お使いに成っていた季語集を1991年の師走にプレゼント頂いた。この年の5月から、銀遊句会に参加して居るので、「僕、最近俳句やってんです・・」などと生意気を言ったに違いない。A6版のポケットサイズの季語集は、我がバックに揉まれカバーの箱は酷く痛み、その頃から持ち歩く事を止めていた。今春、不足を実感した私は、厚紙を加工して自分で箱を作り、今は又携帯している。この10数年の間に、季語集も大小数冊を買い込んだが、初めて手にした思い出の季語集が、携帯するには手に馴染む。
この季語集の「春」には、「立春から立夏の前日までの稱。但し、俳句の上では4月末日までと思っても良い。この言葉だけで季語にする事も出来るが、「春の・・・・」又は「・・・・の春」と言う風にして用いる事がおおい」 とある。よその季語集には加えて、「三春は初春、仲春、晩春を言い、春九〇日間を九春と言う」 と出ていた。
すり寄って来た犬は、「ゆず」と言う、フレンチブルドッグとミニチュアダックスのミックス犬である。我が家には2匹の座敷犬が居て、嗅覚過敏症、喘息、アレルギーの私には想像も出来なかった事態である。数年前、娘がミニチュアダックスの子犬を連れてきた。可愛さも然りながら、犬の臭いが気になって衣料用消臭剤を犬に掛けて酷く叱られた。それが「マーブル」である。ある日突然に、犬の臭いが気に為らなくなった。本当に劇的にである。義父がフレンチブルドックを飼いたいと言っていた。娘が、インターネットで何とも可愛いミックス犬を見つけ、犬臭過敏症の消えた私は親孝行と思い、一番に賛成した。冬至の日に嫁いできたので「ゆず」と名付けられた。義父の家では躾も含め大変なので、我が家で育てている。時々、義父の家にお客に行くと、両親は大層喜ぶのである。
朝日俳壇2007年5月に入選をさせていただいた句である。金子兜太先生には、「犬の春 の春が来て類句を超える」 と句評を頂いた。