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書斎の片付けをしていたのだが、ふと古い文章や、日記、写真など40年も前のものがボロボロと出て来て、しばらく不思議な世界に紛れ込んだ気分になった。丁度その頃の年齢の、今最も若い20代前半の我が友人のブログを拝見すると、
「アイデンティティを一貫性あるものとして主張するのは間違っていると私は思うし、事実私のアイデンティティなるものがあるとすれば、それは点でばらばらなように感じる。きわめて流動的で、即時的で、しかも多面・多元的である。なぜか。もともとの語義を考える。アイデンティティはラテン語のidentitas(同じであること)から来ている。だからこれまでアイデンティティは「同一性」とか「自己同一性」と訳されることが多かった。過去から連なり、現在ただいま、そしておそらくは明日のその存在に対しても、「同一である」ことが確認できる、そういう意味が含まれていた。だが、果たして「同一である」ことがアイデンティティであろうか、という疑問が20世紀次々と沸き起こった。そしてこの疑問の衝動に重要なのは、この「アイデンティティ」という概念があくまで「人間」に向けられた社会的な概念であるということなのである。 パーソン(person)、すなわちペルソナ(仮面)をまとった社会的存在としての人に向けられた概念が、そのペルソナを無視して原義だけを振りかざすように横行してもいいのか、ということである。90年代、アイデンティティは操作可能であり、そこにはゲーム性があるということを意識しながら社会学者石川准は「存在証明」という名訳を生み出した。「私は現在ただいまここにあり、その証は私という、現在ただいまここにあるもの以外ない。」というメッセージを私はこの語から感じるのである。」 当時私は、アイデンティティーと言う言葉をどう理解し、自分のものにするかを考えていたように思う。ある時、「ガード下の壁に張られた古いポスターを見て、いいなと思った。それがアイデンティティーだよ。」という示唆がアイデンティティーの理解のスタートだった様に記憶する。その後、この言葉をいじくり回し、言いにくいこの音をどう上手に使えるかに腐心をした。今日以上に「アイデンティティー」と言う言葉が新鮮な力を持っていたし、どう理解しているかがその人間を判断する重要な基準にもなっていた。 彼の論を読みながら、また古い我が文章や写真を見ながら、アイデンティティーとは「我が身体」と思えてならない。正しく実感を言えば、60年を超えて在る私が私のアイデンティティーである、と思うのである。そう言えば、それは「パーソン・ペルソナ」でしょう、と言う声が聞こえて来そうだが、今は「身体」と思うのである。特に私は、この40年余、替わりながらほぼ変わり無く在る自分を思い、ここに「アイデンティティー」を思うのである。
by tgenna
| 2010-03-02 10:05
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Comments(3)
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岩川光
at 2010-03-02 14:27
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引用、紹介ありがたく、また畏れ多く存じます。
「アイデンティティ=私の身体」という見方、合点がいきます。やはりわれわれは近代以降の二元論(例えば心/身乖離論的な理解)から逃れられていないけれども、しかしどちらも「私」であることを考えれば、天野祐吉氏が言う「外見は中身の一番外側」というのがしっくりくるのです。 発展して私はさらに、身体外的な存在となってしまうことで伝達される「表現」というものにも、また同じく「身体としてのアイデンティティ」があるんじゃないか、と思っています。
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きまぐれジョーカー
at 2010-03-03 09:47
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「アイデンティティ=我が身体」大変面白く拝見しました。
私が末席を汚す劇団ダウトの長谷川主宰は常々、 「演じるとは、本に書かれた人物の記憶を掘り起こし表現することだ。」と言われます。そして「演劇空間とは、役者と観客の間に浮かぶもの。」とも。 「らしさ」を求めるのではなく、この時この瞬間にどんな身体が生まれているのかを想像・創造し的確に表現するのが役者の仕事のようです。(とても力不足でそのレベルには程遠い自分ですが……。) 時田さん、岩川さんのお考えを読んで、役作りとは、その人の身体・アイデンティティに迫る挑戦と府に落ちました。今、取り組んでいることに少し力を得た次第です。
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by
tgenna at 2010-03-03 13:52
光君、ジョーカーさん、コメント御礼申し上げます。季節の変わり目、なんだか調子の悪い我が身体を通して、最近感じている事です。今後とも宜しく触発の程、お願い申し上げます。
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