過日、宇宙航空研究開発機構(JAXX)技術参与、的川泰宣氏の御話を聞く機会を頂いた。
2003年5月9日、鹿児島県内之浦から小惑星探査機が打ち上げられた。「はやぶさ」である。「はやぶさ」が目指した「イトカワ」は、直径がわずか540mの小惑星で、「はやぶさ」が到着した時には地球から約3億kmもの遠方だったと言う。この探査機は、サンプルリターンという往復型の惑星探査を目的に開発され、太陽系の起源の謎を解くための重大なミッションが課せられていた。7年と言う時間を掛けて今年6月13日、地球に帰還した「はやぶさ」の奇跡を、極めてヒューマンな語り口で御話頂いたのである。「はやぶさ」に対し、強い興味を持たずに来てしまった私自身を酷く恥ずかしく思える程に、素晴らしい講演であった。
「はやぶさ」には主な5つのミッションが与えられていた、と言う。
1. イオンエンジンという新しい技術を使って惑星間を飛行
2. 自律誘導航法
3. 地球スイングバイ
4. 小惑星のサンプル採取
5. 地球帰還、再突入カプセル
この5つのミッションが並列に置かれているものでは無く、第1をクリアーして次のミッションに進み、失敗すればその先には進めない 「トーナメント・ミッション」 であり、「はやぶさ」の地球帰還は、とてつもなく偉大な事業で在る事を、改めて知らされた。
的川先生は、「はやぶさ」のネーミングのエピソードから、絶望的な事態が度重なり起こり、そこから奇跡を生むスタッフの執着、知性、意志、チームワーク、等々最先端の科学技術の基にある人間の根源的な力を御話下さった、と思う。「着眼大局 着手小局」 と言う言葉に込めて、何時なん時、如何なる情況でも目指すものを見失わない事、決してマニアには成らず、基本が大切である、と御話下さった。
このミッションの成功を通して、
1. 大好きな事に拘る。(心理的な基盤)
2. 未知の世界を恐れない。(培い鍛える心)
3. 素晴らしさを創る。(実現の保障)
4. いのちのリレー。(支える絆)
と、総括していた。
ある番組のインタヴュアーから、「何故、このミッションが成功したのか?」 の質問に、「適度な貧乏」 と答えたそうである。総予算130億円の今回のミッションは、米国ならば500億円を超えただろうと評価されていると言う。外注する事無く全ての事を自分達で遣り切る事で、スタッフがミッション全てに精通し、奇跡を起こし得たと言うのである。
そして、世界の為の日本、豊かさを超えた立派な国を創ろう、と言う言葉でこの講演を結んで下さった。
残念ながら、キャプションの披露だけでこのレポートを終えなければならないが、極めて豊穣な時間と感動的な御話を頂いたのである。