春分の日の朝、嬉しいお客様のご訪問を頂いた。祖父、父、そして私と親子3代お世話に成っている井上・石井さん御姉弟である。昭和38年、井上さんが嫁がれての新居を、わが社でお世話に成り、それを父が設計した。今回その住宅が計画道路に当たり、曳き家、改修、あるいは新築という何らかの対応が必要になっている。その事業計画が本格的に始動し、その相談に御出で頂いたのである。過日、浦和にあるお宅を訪問させて頂き、住宅を拝見した。昭和30年代の良き時代のモダン住宅で、私の知る父の設計の特徴を良く残していた。井上さんは、この住宅に愛着を持ってお住まい頂いている事を、一見して理解できた。丁寧に住み込まれ、上手に生活されている。幸い、40年を超えて歪みも痛みも無いと言う。私は、今の住宅を最大限に尊重し、一部解体増築をすることでまた新たな命を吹き込み、次代に伝えて行くロングライフ・ロングバリューを獲得する計画を提案させていただいた。井上さんもそれを望み、良い打合せと成った。
午後は、近い親戚への彼岸の挨拶回り。大工棟梁で、近在一の腕を持つ本家の時田さんにお邪魔してお線香を上げさせて頂いた後、御茶飲み話で何の気は無しに井上さんの話をしたところ、偶然棟梁が若い時に手掛けた仕事だった。父から些細なディテールの収まりで酷く怒鳴られたので、忘れられない仕事として鮮明に記憶していると言う。それを緒にして、当時の現場の話、名家石井家の話、嫁ぎ先の井上家の話、そして我等が先代・ルーツの話など私の知らない興味有る多くの事を教えて頂いた。父母の急逝で、後の生活の中で改めて引き継がなくては成らない多くの事を知らぬままに、聞いておけば良かったと残念に思う事が多い。彼岸のこうした機会が随分と助けになるし、先祖を思う一番の供養と、この行事の効用性を改めて実感している。